パフェはお好き?
「いらっしゃいませ」
明るい声が“カフェちゅうくらい”に響く。間の抜けた名前に似合わず品良く飾られた洋風の店内と不思議と調和している豪奢な生け花、清潔に保たれた店内は、お客の刀剣男士で混み合っているのに騒がしすぎることなく落ち着いた雰囲気を醸し出して、好んで通いつめるものたちの憩いの場所となっている。この空気はホールを取り仕切る一振りの打刀が作り上げたものかもしれない。どんなに混みあおうとお客を不快にさせず店内をまわす、その打刀の名をへし切長谷部という。
今日も長谷部は黒いギャルソンエプロンをたなびかせ、さっそうと店内を騒がしくない速さで滑らかに移動する。その小気味良く動く足と腰から流れるちょうちょ結びで彩られた薄く形の良いお尻、普段は己の主にしか見せていないであろう甘い笑顔で、店内の視線を集めながら。
そもそも何故、刀剣男士である長谷部がカフェの真似事などをやっているかと言えば、ずばり金のためである。長谷部の所属する本丸は元々、中堅どころで可もなく不可もなく、それなりの成績でそれなりの期間を経ていて貧乏ではなかった。たまには奮発していい肉たべちゃう? ぐらいのことが許されるそこそこの財力だったのだ。そう、政府がしかけた先の数珠丸キャンペーンで、資源と小判を溶かすまでは。今までが順調にきていたのがいけなかった。審神者は次こそは来るだろうと止めどきを見失い、周りが止めても鍛刀を止めなかった結果、貧乏本丸の誕生である。
諸々の支払いは済んでいる今月はまだいい、来月からどうしようと本丸内の運営を担っている旧打刀組が頭を抱えた時、無駄にバイタリティのある審神者が言った。「そうだ。カフェやろう」と。再来週から近隣の政府施設で大規模な研修会が始まる、その期間だけやってみようよと。
かくして、繁盛するのか半信半疑ながら、やるからには全力な彼らは使っていなかった半ば物置の長屋を綺麗にし、備品は本丸のものと各自の私物を工夫して流用し、営業許可もとり、カフェを開くに至ったのである。
蓋を開けていれば、簡易なメニューしか取り扱っていなくとも、小難しい研修の合間にひと息つきたい刀剣男士は多く、思っていたよりも盛況しているのであった。
「ちょっと、長谷部お尻とかさわられてない?」
「はぁ? 誰が男の臀部なんか好んでさわるんだ」
「えー、だってあの常連の燭台切、いっつも薄笑い浮かべて、長谷部のお尻ガン見してんじゃん」
「がんみ……? おい、3番テーブルにアイスコーヒーとアイスミルク急げ」
「はいはい。さわられたら言うんだよ〜」
同じ給仕担当の加州を送り出してから、長谷部が件の燭台切をちらりと伺うと、ばっちりと目が合った。思わず真顔になってしまいそうな顔を緩め、営業スマイルを浮かべれば、視線の先の燭台切は薄笑いを誰もが見とれるような大輪の笑顔に変えた。燭台切という刀はいつも笑顔でこんなものだと思うのだが、何故か冷や汗が背を伝い慄く、長谷部は新たな客を迎えるために無理やり意識を切り替えた。
笑顔が怖いなんてことがあるのか。まだまだ学ぶことがあるなぁと長谷部はひとりごちた。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは!」
行儀の良い挨拶が返ってくるのに、仕事用ではない笑みを向けながら、前田、平野、秋田、乱のテーブルにガラスに汗をかいた冷たい水を置く。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
注文されたのは仲良くクリームソーダが4つ。今日は暑いからか、冷たい飲み物がよく出る。
「あの」
承りましたと頭を下げ踵を返そうとした長谷部に前田からおそるおそるといった風に声がかけられる。
「はい」
「僕は……あの……我が本丸の長谷部さんに憧れているのですが、長谷部さんと仲良くなるにはどうしたら良いと思いますでしょうか。同じ長谷部さんからの助言を頂きたくて……」
「そちらのへし切長谷部と仲良くなりたい?」
物好きな前田の問いに長谷部は思わず気の抜けた声が出てしまった。
「はい! お仕事をとても速く的確に処理なさいますし、戦場でもいつも誉を取るぐらいお強いですし、あの速さと駆ける様はとてもお美しいですし、あの藤色の瞳を見つめると吸い込まれそうに……」
「わかったわかった……。んん……まあ、よく言われることだが、俺は黙っていると恐く見えるし喋れば口うるさいし、厳しく見える刀なんだろう。だが、ただ真面目に仕事を遂行したいだけで、怒っているわけではない。嫌われているだろうと自分からは近寄らないが、小さきものを好ましく思う気持ちもある。だから、単純に前田から話しかければいいんじゃないか? ただ、冷たく聞こえる言葉が返ってきても誤解しないでほしい。……不器用なだけなんだ」
「はい! ありがとうございます!」
しまった。きらきらとこちらを一心に見つめる瞳に気押されて喋りすぎたかもしれない。
長谷部は熱くなる頰を隠すように俯いて、オーダーを通すべく仕事に戻った。背後の賑やかさには聞こえないふりをして。
「よかったね!」
「そっかぁ、僕も話してみたいなぁ」
「やはりお美しくて……かわいらしい」
「前田がおかしい……がぜん興味が湧いてきました」
「長谷部、嫌な思いはしていない?」
こちらも常連になりつつある左文字兄弟の小夜は長谷部たちが金策でこのカフェを運営していると知ってから、しきりに長谷部を気づかってくれる。
「大丈夫だ。楽しくやっている」
「本当に? 長谷部におかしなことをする奴がいたら言って、僕が守るから」
「……ありがとう」
「小夜、まずは話し合いからですよ……」
「小夜、この長谷部は充分強いので心配無用ですよ。へし切という刀は自覚が足りないのだから、もし何かあっても自業自得だと思いますがね」
さりげなく馬鹿にされたような気もするが、笑顔はくずさず長谷部は注文の確認をする。
「3人ともいつものでいいのか?」
「はい」
「緑茶2つに、アイスミルク1つだな。そういえば、左文字が牛乳を飲むのは意外だな」
「僕は大きくならなくちゃいけないから、僕の長谷部を守るために」
「ん?」
「うちの長谷部はひよっ子ですからね」
「来るのが遅かったのですよ……」
いや、気になるのはそこじゃないと思ったが、つっこんではいけない気がして、長谷部は引きつった笑みをひとつ残してテーブルを離れた。
「おつかれさま〜」
店を閉め、掃除と片付けも終わらせれば、自然とおつかれさま会が始まる。厨房から料理担当の歌仙とお伴なしの鳴狐が持ってきたものに、加州と長谷部は目が釘付けになった。ちなみにお伴は厨房には入らずもっぱら看板狐として呼び込みの仕事をしている。
「苺を沢山いただいたので、明日、数を絞って苺パフェをだそうかなと思うんだ」
「……試食」
「え? 食べていいの?」
「ああ、ただ、ひとつしかないから3人で分けてくれたまえ。僕は冷たいものは苦手だから」
「やった!」
加州が率先してスプーンを握り、てっぺんで輝く苺とふわふわの生クリーム、バニラアイスをバランス良くすくい、「まずは店長! あーん」と長谷部の前に差し出す。
少々恥ずかしい気もするが、パフェの魅力には勝てず長谷部はおそるおそる口を開けた。
ぱくり
「どう? どう?」
皆に見つめられながらもぐもぐと口を動かし、口の中いっぱいに洋菓子特有の華やかな甘さが広がると、ふにゃりと目尻が下がり「おいしい」小さく吐息のような声が漏れてしまった。
苺の甘酸っぱさと、生クリームの安心感を覚えるような甘さ、アイスの冷たさが疲れた身体に染み渡る。
「うーん、作りがいのある表情だね」
「ぐぬぬ、はせべかわいい。俺の方がかわいいのに、悔しいけどかわいい! ほら、いっぱいお食べ〜、あーん」
仕事終わりでテンションの高い加州が、こんもりと盛られたスプーンを長谷部の口につっこんでくる。アイスが多めでこれまた美味しい。長谷部はシンプルで優しい味のバニラアイスが一番好きだ。自分ばかりが食べてはいけないとスプーンを奪い、鳴狐と加州の口に運んでやる。2人の顔が緩むのを目にして、うんうんそうだろとばかりに長谷部は頷いた。
キィ
古いドアが軋む音に、4人が入り口に目を向ければ、そこには大和守が顔を覗かせていた。
「清光、迎えに来たよ」
その言葉に長谷部がぴくりと身体を揺らしたのを目に留めた鳴狐が首をかしげ問う。
「どうしたの?」
「え?」
「長谷部殿のご気分が少し下がったように見受けられると鳴狐が申しておりますぅ」
「いや……」
「なぁに? 何か嫌なことでもあった? 安定の顔がむかついた?」
「こら、迎えに来てやったのになにいってんの?」
またいつもの口喧嘩が始まりそうな2人を眺め、長谷部は唇をきゅっと噛むと少し俯いて話し出した。
「2人は仲がいいな……」
「「どこが!?」」
「その……相談をしてもいいだろうか?」
あの何事もばりばりと自分でこなす長谷部が相談とは珍しい。4人と1匹は顔を見合わせた。
このところ、俺たち古くからの打刀は、このカフェの運営で、太刀連中は主に遠征、短刀に脇差は夜戦に出ているじゃないか。そして、新たに打刀になったものも夜戦に出ているだろう。それで、まあ、大倶利伽羅も主力として忙しくしているから、俺たちはすれ違いばかりで、その、なかなか話もできないし、……とにかく……夜、布団が冷たいのがつらい。
何度も言い淀みながら話す長谷部の言葉を聞いて、大和守は眉をしかめて言い切った。
「何か色々はしょられてるけど、つまり、共寝ができないのが寂しいってこと?」
「あ……うん」
はっきりと言葉にされて、長谷部は自分の耳が燃えるように熱くなっているのを感じる。
「わかった。そういうことなら、次の長谷部の休みは大倶利伽羅と一緒になるように調整しよう。それでいいかい?」
「ああ、ありがたい」
「んー、はせべ、もっといちゃいちゃしたいってことでしょ?」
「う……ああ」
「くりからの様子はどうなの? まったく顔を合わせていないわけじゃないでしょ?」
「いつもと変わらない」
「向こうから何か接触ないの?」
「ない……くりからはいちゃいちゃとやらができていないことに不満は感じていないようなんだ。い、いつも向こうから動いてくれていたから、どうしたらいいのかわからない……。何より俺が誘ったところでかわいくもないし……いや、むしろもう興味がない……」
「はせべストップ! はいあーん」
差し出されたアイスを素直に口の中で溶かしながら、ぐるぐると悲しい想像がめぐる長谷部の頭を鳴狐がそっと撫でてくれる。
「大倶利伽羅の考えは読めないが、休みの日にどうにかがんばりなさい。君らは言葉が足りないと思うよ」
「いや、しかし、どうやって‥‥? 何かそういう指南書のようなものはあるだろうか?」
「鳴狐あーん」
「長谷部でも困ることがあるんだね」
「当たり前だろう」
ぽつりと大和守がこぼした言葉に、驚きながら長谷部は肯定する。
「わかった! じゃあ、俺と安定で休みの前の日に誘いやすいようなサプライズを考えとくから。はい、あーん」
「何で僕まで」
「長谷部が困ってるんだからさっ」
「しょうがないなぁ」
そうして、加州に丸投げする形で、おつかれさま会という名の相談会は幕を閉じた。
加州に全てを任せてしまった当日、何が起きるのかわからない不安と加州なら大丈夫だという信頼とで、ぐちゃぐちゃになりながら長谷部は出勤した。部屋を出る前にどうしても触りたくて、顰めっ面で眠るくりからの眉間の皺を伸ばしてから来たことは秘密だ。
「よし! じゃ、これにちゃっちゃっと着替えちゃって~」
加州に任せようと腹をくくったはずなのだが、渡されたものに着替えようとして呆然とする。
「おい、これが俺に似合うと思うのか?」
「俺は思わないけど、あの男、特殊な性癖持ってそうだし……ギャップ萌えを狙うの!」
「いや、しかし、興味ないどころか嫌悪まで抱かれたら……」
「それはないない。そんな冷たくて見た目で判断するようなやつだっけ?」
加州はびしりと長谷部の鼻先に鮮やかな赤で彩られた指をつきつける。
「違う」
「でしょ。イベントだから俺も同じようなの着るし、恥ずかしくないよ」
「……付き合わせてすまない」
「何着ても俺は似合っちゃうから、へーきへーき。おおくりからは今日夜戦なしにしといたから、これでばっちり! まずはお仕事お仕事~」
「はぁ」
元気な加州に困惑のため息で応える。
「あっ、あと、閉店時間前にさ……」
加州に耳打ちをされ、刀に戻りたいくらい恥ずかしい内容に長谷部は顔を染めて口をぱくぱくすることしか出来なかった。
「こんばんは~」
いつもより盛況して異様な熱気が満ちていた営業時間も終わりに近付いた時、大和守が来店した。
その後ろからいつもと変わらないゆったりとした佇まいで現れた大倶利伽羅は、店内を見渡し、接客中の長谷部に目を止めると僅かに瞠目した。しかし、思っていたよりも反応が薄く真顔のままなのを見て、どう? どう? 俺いい仕事した? とばかりに伺っていた加州は内心で首を傾げる。予想では見た瞬間怒りだして、長谷部を連れ出すかとぶっちゃけ期待していた。珍しく大倶利伽羅の怒るところが見られるかと。
あれ? 失敗したかな? 食いつくと思ったのになぁ。
最後の客を送り出しクローズの札をかけると、そのまま無言の大倶利伽羅に手を引かれて帰る長谷部を見送った。
読み違えてたらごめんねと片目をつぶりながら。
無言で2人の部屋に帰りつくと、俯いた長谷部はくりからの腕の龍を目に映しながら次の手順を脳裏に浮かべた。
あれだけ、皆に励まされお膳立てしてもらったんだ。よく切れる刀がこんな事で怖気付いてどうする。
思っていたよりも、こんな格好をして仕事をすることに抵抗は無かったし、なんてことはないと己を励ましながら、震える手でメイド服の、加州曰くクラシックメイドスタイルだそうだ、長いスカートの裾を掴み、たくしあげた。
「据え膳は食べないのか伊達男?」
引き攣りそうになりながら長谷部は精一杯の笑みを浮かべる。どう考えても薄ら寒い絵面に、とても大倶利伽羅の目は見られなかったが。
「あんたこんな格好で働いてたのか?」
今まで何の反応も見せなかった大倶利伽羅が、呟くように小さな声を発した。
「あっああ……似合っていないが、イベントだから……」
「こんな格好で、下にはこんないやらしい下着を着けて?」
長谷部が今、身につけているのは、女物の白いレースで出来た下着で、これまた加州曰く、ビスチェとショーツと膝上ストッキングにガーターベルトだそうだ、男性の身体で身につけるにはとても心もとない。
「う……うん」
「許さない」
「へ?」
「どれだけ俺が我慢してきたと思ってるんだ……許さないからな」
決して声を荒らげることはないが、いつもより数段低い激情を押し殺した声で畳み掛けられ、ずっとうろうろとさせていた視線をやっと大倶利伽羅にむける。
見つめ合って今更長谷部は気付いてしまった。
大倶利伽羅がとても怒っていることに。その目に燃える嫉妬の炎に。
ぞくりと震えた背は、恐怖のためか期待のためか、長谷部自身もわからずに、けれど、ごくりと唾を飲み込むと、より挑発するように動く身体を感じていた。
ゆっくりと後ろを向いてたっぷりとしたスカートの裾を大きくめくりあげる。
「もう……慣らしてある……」
きゅうと腹に力が入り、白く繊細なレースで出来たオーバックで遮るもののない後孔から、とろりと慣らすのに使った油が流れ落ちるのがわかった。
羞恥に震えながら、唇を噛む。
やはり、はしたなかっただろうかと長谷部が後悔し始めるぐらいの沈黙がたっぷりと流れた後、おそるおそる後ろを振り向けば、獣のように獰猛な空気を纏った大倶利伽羅がいた。
「あ……」
ジジジジ
獣は背中のジッパーを下げると、ゆっくりと長谷部の項にその歯を沈めた。
「んっ」
冷静に見えた刀の荒い息遣いが身体に響いて、長谷部も甘く鼻に抜ける安堵に似た吐息を漏らしていた。
「あっあっあっ……んぅ」
くぽりと後ろから覆いかぶさっていた大倶利伽羅の陰茎が引き抜かれると、吐き出されたどろりと粘度の高い液体がゆっくりと長谷部の震える脚を伝っていく。肉に沈み込む歯の感触に甘い痛みを感じながら激しく求められて、ぽっかりと空いた寂しさが満たされると、長谷部は途端に我慢が出来なくなる自分を感じる。もっともっと欲しい。未だ痺れの残る身体を起こし、汗を吸って絡みつく幾重にも重なった布を脱ぎ捨て、薄い下着を纏うだけになった。向かいの大倶利伽羅も汗で張り付く服を脱ぎ捨てている。
ああ、また唾が溢れる。口が寂しい。
長谷部は甘い甘い飴玉を前にした童のように、白濁がまとわりつく大倶利伽羅の芯を失った陰茎に舌を伸ばしていた。丹念に大倶利伽羅の種を舐めとりながら、ちろりと上目に伺えば、眉を寄せて吐息を漏らすのが目に入る。
少しずつ固くなっていくのを感じながら、雁首にぐるりと舌を這わせ、ぼこりと茎に浮いた血管の感触を楽しみ、まだ柔らかい陰嚢を唇ではむはむと愛でる。見せつけるようにぱかりと口を開けて亀頭を迎え入れると、乳をねだる子猫のようにちゅうちゅうと吸い上げた。
「くっ……」
未だ中に残っていた残滓がじゅるり吸い出されて舌の上に苦味が広がる。この男の味がもっと欲しい。足りないとばかりに鈴口を何度も舌で辿った。
「はっはっ……そんな残念そうな顔をするな。怒っていたのは俺なんだがな」
「んぅ」
耳を指で擽られ声が漏れる。
だって、お前がたりない。
いつも俺より高い体温を、感じながら温かい布団で一緒に寝ていたのに、最近は冷たい布団に震えながらひとりでもぐりこみ、朝は大倶利伽羅を置いて出ていかなければいけなかった。軟弱な己のこころが恨めしい。
ぽっかりと空いた場所の冷たさ、一緒に在ることが出来ない空虚さを思い出し、我知らず長谷部の目は潤む。
「もっと……」
それしか知らないかのように繰り返す。
「もっとだ……くりからが欲しい」
手の中の大倶利伽羅自身がぴくりと育つのを感じて、愛しさに微笑んで茎を扱きながらまたぺちょりと舌を這わせる。
「あんたばかりだと思うなよ」
ぎりぎりと歯を鳴らした大倶利伽羅は、長谷部を強い力で持ち上げて押し倒し薄布の上から胸の尖りに噛み付く。
「ふっんっ」
かりかりと桃色の中心を引っかかれれば、布が擦れて強い摩擦で、ぴりぴりと甘い痺れが背筋を震わせる。
「ぃあっあっあっ」
指を立てる大倶利伽羅の腕に手を伸ばしても、力の入らない手では添えるだけになってしまう。
「あっあっあっあっ……それだめ……だ」
ビスチェをたくしあげられ、執拗になぶられたことで敏感になっている尖りをぢゅうぢゅうと強く吸われると、その熱い口内に押し付けるように背中を跳ねさせ、長谷部は軽く極めてしまった。きゅうと薄布に包まれた爪先が丸まる。
「やぁあっあっ、もうっ吸うなっ」
ちゅっと軽く吸ってから口を離した大倶利伽羅は、びくびくと腿を震わせて己の腰を挟み込む長谷部に満足そうに微笑むと、最後に硬い親指の腹で両方の尖りをぐりりと擦った。
「んっ」
「こんな格好、似合わない」
耳に入った言葉を浮かれた脳がゆっくりと飲みこんだ瞬間、ひゅっと息が詰まる。目の奥がぎゅっとなり、視界が滲んでいく。
せめてもの足掻きに口を歪めて、そうだろ? と笑い飛ばしてやろうとした長谷部の耳についで染み込む言葉。
「でも……かわいい」
囁くような声に脳が沸騰するようで身体を震わせることしかできない。
「くっ、う……そ」
「……かわいい……かわいい」
嘘をつくなとなじりたくて、切れ切れに紡ぐ言葉を封じるように、馬鹿みたいにかわいいと言うこの男は本当に大倶利伽羅だろうか。滲む視界を瞬きで払えば、じんわりと赤く染められた頬の上の真剣な金色とぶつかり、どきりと心臓が跳ねた。
「はっ」
ぶわりと身体に熱が満ちる。くるくると身体を巡る熱に押し出されるように新たな雫が長谷部の目から次々とこぼれ落ちる。熱くてこわい。
「やだっ……やっ」
息も絶え絶えな長谷部の呼吸が整うのを待たずに、大倶利伽羅はショーツから顔を出し、完全に立ち上がって透明な液体をとろとろと吐き出し続ける長谷部自身には触れず、白いストッキングで包まれた脚を舐めては齧り、長谷部に甘い疼きを与え続ける。歯が引っかかり裂け目だらけになったストッキングに満足したように口の端を上げると、ガーターベルトをはじいて、脚の付け根を動物のようにべろりと肉厚な舌で舐める。小さなショーツからはみ出した陰茎には触れてもらえず、切ない長谷部の喉からくぅんと子犬のような鳴き声が漏れる。
大倶利伽羅は宥めるように口付けをすると、
「俺は怒っているんだからな……」
「んぅ」
「お仕置きだ……前は触らずにいこうな」
幼子に言いふくめるような柔らかな声色で、残酷なことを長谷部の耳に吹き込み、猛りきった自身をひくひくと疼く後孔にあてがい、迷いなく穿った。
「んぁっ!」
とろとろと柔らかくほぐれた隧道を最奥までわりひらくと、強く速く襞をなぞっていく。こりこりと前立腺を雁で引っかかれれば、長谷部はもう声を抑えることが出来ない。
「ゃぁっ、あっあっぁっあアッ」
大倶利伽羅はふぅふぅと生暖かい息を吹きかけながら長谷部の脚を肩にかけ、奥まで届かせるようにぐりぐりと腰をまわす。ざりざりと大倶利伽羅の下生えとショーツが擦れる感触を感じながら、苦しさを上回る溢れる快楽にもっともっとと、引き込むように粘膜が蠕動するのを止められない。
「ぃあっ、んんっ、ああっ、んんんぅ」
強い前後運動で奥をこんこんと叩かれお腹が熱い。
「あっあっあっ……くりからっ、くちっ」
ぽかりと空いて、意味をなさない言葉を吐き出すばかりの口が寂しくて、長谷部は汗を降らせる男の頭を引き寄せ口付けた。お互いの舌を絡ませあい、ちゅうちゅうと口を合わせる。
「んんっ」
小刻みに最奥をくぽくぽと抉られ、長谷部の視界でチカチカと光が瞬くのに合わせるように筋肉がびくびくとさざめく。その形を記憶するかのようにぎゅうぎゅうと体内のくりからを締め付ける己の身体の無自覚な反射が、また快感を増幅させていく。
「ふっ……くっ」
「やっ、やっ、やぁ、あっあっ、ぃあっああ」
長谷部は今までに感じたことのない高みに追い詰められて、弓なりに背をたわませ、遂には後ろだけでびゅくりと射精していた。遅れてくりからの種がびゅうびゅうと勢い良く最奥に吐き出される感触。
「ふあっあっ……んっんっ」
「くっ、はっはっ」
なすりつけられるように中を広げられるのを感じながら、未だ瞳に炎をはらむ大倶利伽羅の目元をなぞり、
「熱い……なぁ」
へにゃりと微笑むと、大倶利伽羅の熱に包まれて安心するように長谷部は瞼を閉じた。
「すまない遅くなった……」
「ぴゃっ」
「え? おともちゃん~どうしたの? はせべ、ふらふらじゃん……つーか、なにこの濃い気配! お供が震える程って!」
「これは……雅じゃないね……」
「あのむっつり牽制の仕方がこわいんですけど! え? どうする? 空気がぴんく」
「マーキング……長谷部……疲れてる」
「とにかく長谷部は裏に入りなさい。今日は無理しないこと。……そうか、そうか、この大変な時にあの刀は働き詰めで疲れている長谷部を気遣うこともせず、大切な休日を潰したと……この埋め合わせに、明日は大倶利伽羅にメイド服を着て働いてもらおうか」
「あっ、歌仙結構怒ってるよこれ」
「……見たい……かもしれない」
「ぽややんとして、ぴんくの空気濃くしないでよ! ちょっとー!! なにこのバカップル!」
「似たもの同士……」
「あばたもえくぼって言うんだろ?」
なぜかにやりと誇らしげに笑う長谷部に、歌仙が吐いた深いため息が店内に響く。
「長谷部! 君も同罪だ! 明日はメイドとしてこき使うからな」
「歌仙……長谷部の口元緩んじゃってるよ。罰にならないって」
「なんか……イラッとするね」
無口な鳴狐から普段は使われない言葉が出てきて、長谷部はびっくりしてしまった。
「……浮かれてしまって申し訳ない」
はっとしたように眉を下げてしゅんとする長谷部を囲んで、それぞれにわしゃわしゃと撫でながら3人と1匹は苦笑した。
「君はたまには浮かれた方がいいんだよ、あくまで程々にね」
「鳴狐は、大倶利伽羅殿ばかりが長谷部殿と馴れ合っているのが、悔しいのですよぉ」
「……ずるい」
「そうだよね! たまには俺たちで一緒にお出かけとかしたい~」
「ああ、お金がたまったら、みんなで休暇を申請しよう」
「「あっ」」
小さく微笑む長谷部の言葉に、現実を思い出したメンバーはばたばたと開店準備に戻った。
「いらっしゃいませ~」
ここは刀剣男士が集まる期間限定のカフェ。
今日は口元の黒子が色っぽい青年と、丁寧に対応する無口な白髪の青年が迎えてくれるだろう。
明日は真顔で褐色の逞しい脚を晒したミニスカメイド姿の青年と、端正な顔に完璧な笑顔を浮かべたクラシックメイド姿の青年が見られるかもしれない。
フォロワーさんのつぶやきに寄せて
06/05/2016