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​よりそう

 

 

 

 

 

「君達はみかけは正反対に近いのに内面がとても似ているね」

 

 執務室にこもりふたりで書類仕事をしていたある日、主が急に仰った。

「そうでしょうか? 似ているとはとても自分では思えませんが……」

 自分でも自覚しているように、口うるさくせかせかと走り回る長谷部と無口で悠然と構えた大倶利伽羅、数値上では機動重視と打撃重視の刀、似ていると言われてもピンとこない。

「確かに言動とってみてもだいぶ違うんだけどさ。芯のところというか、表に出る前の内面がね、似ていると思うんだ。うん、うまく言えないな……ざっくり言えば雰囲気かな」

「はあ」

 雰囲気。常々空気が読めないと揶揄される長谷部には雰囲気というのもよくわからないぼんやりした手触りの物体だ。

「同じ流れをくむ刀派だし、家族のような、うーん、兄弟のような?いや、兄弟みたいな上下がないような……あ、双子が近いかな」

「ふたごですか? ふたごとは何でしょうか?」

「同じ母親の胎内で同時に育って産まれるそっくりな兄弟のことさ。まあ、姿が似ない場合もあるんだけど、不思議と双子は離れていても同じことを感じていたりするらしいよ」

 この身で持つ兄弟すら長谷部は触れたことがないのだから、双子など尚更わかりようがない。

「だってさ、君達良く言葉じゃないもので会話してないか? え? それでつうじてるの? ってよく思うよ。ふふ、厨二病的に言えば魂の双子かな。え? 厨二病? あ、そこはあんまりふれないで大丈夫。そういや大倶利伽羅って見た目あれっぽいよな。いやいや、独り言独り言……」

 知らない言葉の数々を受け止めパチパチと瞬きするばかりの長谷部に、なぜかとても楽しそうに主は話を続ける。

「なんかなーでもなー、君達を見ていると癒されるわ。猫2匹がくっついて寝てるみたいな癒しオーラ出てるよ、マジで。そういや、目とか猫に似てるよね」

 今度は猫。長谷部たちはただの刀なのだが人である主の目には随分と色々なものに見えているらしい。

「はぁ、マジで……そろそろ手を動かしませんと締め切りまでに終わりませんが」

 息抜きのおしゃべりもほどほどに、ちらり時計を確認し止まってしまっている手を動かすように促す。

「はいっ、現実逃避、すんませんしたっ。続きやりますっ」

 素直に書類にかじりつくさまに思わず笑みをこぼして思い出す。

 ──笑うことを覚えたのはいつどこでだっただろうか?

「確かにあれと一緒にいると、こう、緩む感じはしますね」

「ねー今度2人で猫耳つけてよ。絶対かわいい…………はいっ、すんません。続きやりますっ」

「長谷部も存外かわいいものは嫌いじゃないですよ、主。でも、手は動かしましょうね」

 もうひとつ微笑んで、なんだかんだ言っても仕事はきっちり仕上げる主の手伝いに没頭した。

 

 主は長谷部と大倶利伽羅が似ていると仰ったが、果たして本当にそうなのだろうか。

 確かに一緒にいると落ち着くが、ふたりの考え方はだいぶ違うように思える。物事を割りきって考えたいと思い内心必死で務める長谷部とは違って、大倶利伽羅は構えず自然に真っ直ぐ考え割り切った言動ができているように見える。そこが少し嫉ましくて羨ましい。たまに強情なところもあるが、大倶利伽羅の言動は見ていて気持ちがいい。見ているこちらの背筋が伸びる線を描くしなやかな枝のようだ。長谷部はどうしても内面の葛藤がにじみでて雑音が混ざってしまうが、大倶利伽羅はスッと自然に動いて内面の素直さが滲み出ている。そばにいてそれを感じていると、とても心地良い。

 ああなりたいわけではない。ただ隣でその胸がすくような在りようを見ていたいと思う。


 

 

 

 そんな話をした数日後、文机に向かう長谷部の傍で大倶利伽羅は寝転がりながら五虎退の虎をあやしていた。部屋の中に囁き声に似たしめやかな雨音と子虎の鳴き声ばかりが響く。

 飼い主である五虎退は泥で汚れた虎を洗っている最中で、洗い終わったものから預かっているのだ。なにせ五匹もいるから大変だ。昼の出陣の報告書を書きながら横目で見ると、今は二匹が大倶利伽羅の手を甘噛みしている。無骨な褐色の指に残される無防備な歯型を思うと、ちりり胸で何かがくすぶる。少し虎が羨ましい。

 

「そういえば、この前主が俺とお前は似ていると仰っていた」

 報告書の末尾に署名を加え筆を置き、大倶利伽羅の方に身体を向けた。

「双子というよく似た兄弟のようだと」

 大倶利伽羅は虎の頭をちょいちょいと指で撫でながらこちらを見た。大きなふたつの金色と小さな金色よっつに見つめられ、そういえば大倶利伽羅の目は虎にも似ているなとちらりと思う。虎はネコ科だったと記憶しているが、愛玩動物の猫よりも獰猛な虎の方がお似合いだ。

「……猫に似ているとも仰っていたなあ」

 視線の先で止まってしまった指にじゃれついてまさしく猫のような声を上げる子虎。無邪気なさまに微笑ましさよりも悋気を感じている心の動きに首をかしげる。

「興味はないな。似ていようがいまいが違う存在だ。確かにあんたの隣は過ごしやすいが、楽だからってだけでここにいる訳ではない。ただ俺が近くであんたを見ていたいんだ……それは違う存在だからだろ」

 言葉とともにそらされない瞳が雄弁に語っている。

 ぱちりと瞬きした後、くふっと口が緩んだ。やっぱりお前はすごいなあ、と膝行りよって龍の這うその手をとり指を甘噛みする。ただうらやむよりも行動してみたくなった。この感情も器も複雑だが、使ってみなければわからない。舌を這わせ上目に大倶利伽羅を見つめていると、逆に取り上げられた指で顎をつかまれ唇に噛みつかれる。やわやわと唇を噛み舌でねぶるさまは肉食獣のようで、ぞくぞくと背筋が慄く。ふっふっと息が漏れるのを抑えられない。

 潤む目と熱を持った唇を残して自由になった口から漏れた感嘆は、きっと長谷部の本心。

 

「お前は本当に格好良い刀だ……」

「あんたは俺がいつも我慢しているのを知るべきだ」

 迷うことを知らない刺さるような視線がどれだけ長谷部の身のうちに火をつけるかを大倶利伽羅は知らないだろう。

「そうか? そろそろ虎の追加がくるぞ…………俺が我慢していないと思うか」

 溺れる長谷部がせめてものあがきとばかりに年上ぶって、続きは後でな、と囁き頭を撫でれば、最後に喉を強く甘噛みし名残を惜しむ仕草で大倶利伽羅は離れた。噛まれた場所がじんと痺れ、余韻が腹でわなないた。

 

「長谷部! 猫耳届いたんだよ~付けて付けて! 大倶利伽羅も! 写真撮らせて! それ見てがんばるから!」

 夕餉に向かうために廊下を大倶利伽羅と歩いていると、テンションの異常に高くなった主に捕まってしまった。

 まあ、これでやる気になるのなら猫耳であろうとも安いものだ。隣の大倶利伽羅を見やれば、眉をひそめつつも強く拒否する気は無さそうだ。その辺は鷹揚な男だなと思う。

「仕方がありませんね、今だけですよ。お仕事頑張って下さいね、主。」

 主ということを差し置いても、目の前でにこにこと笑む人の子を前にするとどうしても微笑ましい気持ちになって、仕事以外のことは甘やかしてしまう。

「じゃあ、白いのが長谷部で黒いのが大倶利伽羅! ……ふああ、似合う似合う~。癒しオーラすごいな」

 怖いくらいの真顔で写真を何枚も撮っている主に指示されるまま、まぶしさと変な圧力に顔を引きつらせながら格好を何回も変え(いかんせん大倶利伽羅は仏頂面でやる気がないのがありありと表れていた)て、解放された時には流石に疲れと空腹を覚えた。

「それじゃ、また現世で仕事頑張ってくるわ! それは二人にあげるよ」

 台風のように去っていった主に残されたふたりはしばしぽかんとしてしまった。気を取り直して広間に向かうことにし頂いた猫耳をどうしようかと考えている長谷部に、これは俺が預かる、と大倶利伽羅が言う。

 特に異論もないので素直に渡し夕餉の匂いに鼻をくすぐられながら、猫が好きな大倶利伽羅は猫耳のもふもふも好きなのだろうかなどとぼんやり考えていた。




 

 夕餉と風呂を済まし藍鼠色の浴衣姿になると、逸る心を抑えながら大倶利伽羅の部屋に向かう。

 知らず速くなる足はこびは戦場を駆ける時とは違い乱れた調子を刻んでいる。隣に在ると、長谷部の胸を安堵させると同時に鳩尾をくすぐる大倶利伽羅の存在を思う。張りのある滑らかな肌に絡みつく倶利伽羅龍を見てしまうと駄目だ。そっと指を這わせ口付けたくなる。彼の龍は神聖でありながら獰猛な大倶利伽羅そのもので、絡みついて離したくないと駄々をこねる己をなだめるのに苦労する。

 ああ、早く触れたい。闇の中にひとつ湿った息を吐き出した。

 

 部屋につくと大倶利伽羅は障子を開け放ち月を眺めているようだった。長谷部は静かに敷居を跨いで後手に震える指で障子を閉めた。

 布団の上に濡羽色の浴衣を着て座り込む大倶利伽羅の傍らには主に頂いた猫耳が置いてある。ここにある意図がつかめず内心で首をかしげながら長谷部は向かいに正座をして、このもふもふがよほど気にいったのか、と声をかけた。

「これ自体ではなく、これを付けたあんたが気に入った。今日はこれをつけたあんたを抱きたい」

 何の気負いも見られない真顔で告げられた直球の内容にぐぅと喉が詰まる。目を見開いて凝視するが冗談などではなく、どうやら本気のようだ。こちらを射抜く鋭い輝きに戸惑う。

 厳格で公平な態度を心がけている長谷部だが、大倶利伽羅に甘くなってしまうのは否めない。特に今のような乞う目には弱い。自分にできることなら叶えてあげたくなってしまう。羞恥心と甘やかしたい気持ちを秤にかけて、迷い揺れても結局は情の方が勝つという結果を前に、せめてもの抵抗が矜持に押されてこぼれる。

「お、お前もつけるならいいぞ」

 苦し紛れに出た言葉だが中々悪くない。獣の耳をつけた大倶利伽羅に抱かれることを想像して瞼が震える。自分のはしたなさ羞恥を覚えつつも、興が乗ってしまったものは仕方ない。

 頷き、返される同意を目にして手早く白い猫耳をつけ、大倶利伽羅にはそっと黒い猫耳をつけてやりその髪を整える。じっくり精悍な顔とにょきりと生えた獣の耳を観察する間、大倶利伽羅は行儀よく目前に控えていた。かわいいのに精悍な美しい存在に鼓動が高鳴った。我慢出来なくなって結ばれた形の良い唇に噛み付く。

 いつだって堪え性のないのは長谷部の方だ。

 焦れる長谷部に押されていた大倶利伽羅が主導権を握るように肉厚な舌を捩じ込み、押し倒してくる。くちゃくちゃと水音をたてて舌と舌をざらり絡ませながら、自ずと潤む目を見開くと猫耳が見えた。金色の目と黒い耳に煽られる。手際よく浴衣をはだけ巻きつく帯と下着を取り去り、触れるか触れないかの強さで褐色の指が肌をなぞるのに小刻みに震えて吐息を漏らすことしかできない。

 ──おかしい。

 肌がいつもより敏感になっているようで、まるで溺れているようだ。注がれた唾液をこくりと飲み込み、何とか息をする。

 

「くりからっ、だめだ……ゆっくり! んんっ、まって、まって、さ、触るな」

 

 びくびくと震えながら訴える長谷部に目を細めるだけで、大倶利伽羅は構わず喉仏から臍まで指をつつっと滑らせた。そして、制御出来ない身体に怯える長谷部の戦慄きをとっくり視界に入れ、緩く立ち上がり滴を溢す性器の鈴口から裏筋を辿り、後孔に触れた。強く触られているわけでも無いのに、やわやわとした接触に電流のようにくすぐったさすれすれの快感が走る。あっあっと溢れてしまう声を飲み込むことが出来ない。

 黒猫がやにわに色付いて立ち上がる乳首に噛み付き吸い付く。子猫が母猫の乳を強請るようにちゅうちゅうと吸ったかと思えば、ねとりと肉厚な舌で存分にねぶる。そのあどけなさと獰猛さが混在する様に下腹部が収縮しきゅうきゅうと鳴いている。柔らかな猫っ毛を梳きながら、その目を見つめる。どうしよう。早くこの空洞を埋めてほしい。大倶利伽羅の浴衣の襟を下ろし、張りのある背中に爪を立て、とろりと唾液が溢れる唇を開く。

 

「お願いだ……ん、はやく入れろ……が、がまんできない……」

 

 大倶利伽羅は小さく舌打ちをすると、太股を肌にくい込む程強く押さえつけ、長谷部の芯を持つ性器を口に含み捕食するように甘噛みした。

「ひぃ……んぅ」

 ひやりとした心地とともに内腿の筋肉が震え、爪先がまるまる。

「ンんっーー!」

 恐怖すら呼び起こす微かな歯の感触を感じながらたわいもなく長谷部の雄蕊は吐精していた。自分の身体が信じられなくて涙があふれる。こくり、精液を飲み込んだ大倶利伽羅が慣らされてしまった貪欲な鞘をぴちゃぴちやと舐めだしても、震える肉を持て余し暫く動けなかった。

 舌をねじ込み啜った後に、大倶利伽羅が丁子油をまとった指を差し込む。行儀の悪い音を響かせ急いた仕草で前立腺をなで抉る硬い指の感触がたまらない。次いで増えた指を中で開かれ、不随意に跳ねる身体。それでも疼く空洞はぎうぎうと指を締め付ける。足りない、足りないと。

 

「〜〜もうっ、もう大丈夫だから、早くっ」

 

 倶利伽羅龍の浮かぶ左腕をとり噛み付いて、甘い肌に舌を這わせ龍を愛撫する。

 一瞬動きを止めて歯を食いしばった大倶利伽羅は、期待に満ちた長谷部の瞳を見返し、あんたを傷つけたくはない、まだ駄目だ、と指を三本に増やした。与えられない熱に新たな涙があふれる。襞を数えるようにゆっくりと中をなぞられ、油を塗り広げられる。その優しげな動きが憎らしい。くちくちとした水音が耳を打つ。

 

「アァッ……やだ、やだぁ……ッ」

 

 焦れったい程丁寧に広げられ、立ち上がった性器からは透明な液体がとろとろと流れ出るのが止められない。このままでは持たないのを感じた長谷部は、震える手を伸ばして自分の指で根元をきゅっと締めた。

 

「んんん〜〜〜〜!」

 

 吐き出せない熱が身体の中を逆流するようだ。大倶利伽羅は汗を降らせながら中に入れた指をバラバラに動かしている。徐々に加速する指が前立腺を執拗に叩き、息をのむ。

 

「もっ、ほんとに……だめだからっ」

 

 大倶利伽羅は涙を溢しながら懇願する長谷部の身体を裏返し、お尻だけを高く上げさせ割り開いた後孔に逞しく立ち上がった性器を押し付けた。濡れた熱いものがずるりとこじ開け入ってくる。

 

「んああっあんっ……ひゃっ、っんん、うんっ」

 

 半ばまで入れられただけで、緩やかに吐精していた長谷部は中にある肉を食むように締め付けた。抵抗を物ともせず強い力で開かれ、奥まで穿たれる。パンッという音とともに、はっはっと荒い息が耳に吹きかけられる。黒猫はがぶりとうなじに噛み付くと、ゆっくりとした動きで抽送をはじめた。

 ゆっくり空洞が満たされ、ゆっくり抜きとられる。引き止めるように縋りつく長谷部の鞘。布団に爪を立てて背中を震わせながら身体を押しとどめるが、背中をつうと舐められれば腰を突き出すようにしてしまう。吐き出したはずの熱が冷めない。慄く身体は快楽の限界を感じているのに、乞うことをやめられない。

 だめだ、だめだ、もっと、もっと。

 あふれる愛しさと衝動に半開きの唇からこぼれた高く尾を引いて掠れる「もっと」という言葉。ひとつこぼれれば、抑えきれず、ひ、ひ、と泣きながら「もっと、もっと」「顔が見たい」と叩きつけた。

 大倶利伽羅は肉棒を一息に抜くと再度長谷部を転がし、唇をひとつ舐め、一気に奥まではいってきた。またこぷりと性器をあふれた精液が伝い、ぎゅうぎゅうに大倶利伽羅を締め付ける。ぼやける視界をまばたきで払い美しい猫を見上げると、ぎらぎらとした目が長谷部を喰らい尽くそうとしている。舌舐めずりをし、龍の這う腕で強く長谷部の腿を押さえ付け、引き締まった筋肉を持つ身体を躍動させる。

 ああ、ああ、速い抽送に何も考えられない。再奥を腰を回してかき混ぜられ、その張り出した雁首が弱いところを抉り、快楽と充足感で頭が痺れる。涙を止められないまま首にすがりついて、もうだめだ、と吐息で囁けば、大倶利伽羅は舌で耳朶を辿って囁いた。

 

「にゃあと泣け」

 

 優しい声色で吹き込まれた高圧的な言葉に思わず喉が締まる。ぐちゃぐちゃに乱れた頭と腹を投げ出し固まっていると、また長谷部の弱い顔で中を緩く捏ねながら、だめか?、と首を傾げる。

 

 もう、その顔はだめだ。

 

「に、に……にゃあ…ああんっ、んっんっ」

 

 どろりと媚びを含んだ自分の声の淫らさに羞恥を煽られ意図せず雄を舐めしゃぶった刹那、くっと息を漏らし、大倶利伽羅は下生えが擦れるくらい限界まで押し付け胎内に吐精した。中にどくりどくりと勢いよく吐き出される甘やかな感覚に、んっんっと息が漏れ長谷部の雄蕊からも緩やかに種が押し出される。

 乱れた呼吸のまま、ふわふわした心地で見上げれば、大倶利伽羅はその頬を染めていた。

 思わずくふっと笑いが漏れ、愉快な気分のままにからかいの言葉を吐く。

「早すぎるんじゃないか?」

「……あんたがエロくてかわいすぎるのがいけない」

 拗ねた黒猫が腹立ち紛れに、敏感になっている粘膜に腰を押し付けてくる。

「んあっ……照れているお前の方がかわいい」

 愛しさを伝えるように、その汗で湿った髪を耳にかけてやり、するりと赤く染まる毛先まで手を滑らす。しっかりとくっつきあい、見つめ合うお互いの猫耳姿に笑いがこみ上げくすくすと笑いながら、ひとつ優しい口付けを交わした。

「かわいい」

「おい、それ以上言うな」

「ひぁっ」

 容赦ない力で喉に噛みつかれ息がつまる。くらり揺れる頭にだらだらと涙を吐き出す目。独りでに硬直する身体は道連れにするように、また膨れ上がった雄を食いしめる。

「はっはっ」

 長谷部の限界を目前に尖った拘束を抜かれ喘ぐ。せわしなく酸素を取り込む喉に残る跡を舐める獣の満足げな様子に眉が下がった。

 

 かわいい、かわいがられたい、愛しい、愛されたい、かっこいい、認められたい、すがりたい、すがられたい。

 かたくなで口も上手くない俺が、お前といると自然に生きている。

 戸惑うばかりの人の身体で、通う心と熱を知る。

 機嫌を損ねるから口に出しては言えないけれど、やっぱりお前はかわいく愛しい刀だ。

 隣に寄り添う獰猛な牙を持つ俺の猫。

 お前に乞われれば幾らだって俺は鳴くだろう。

 精一杯の気持ちを音に詰め込み、言の葉の代わりにひとつ「にゃあ」と鳴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


​初めて支部に公開したお話

​08/12/2015

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