Eat you / Eat me
葉の色づきが深まるようにひっそりと大胆に密事は続いていた。
大倶利伽羅の雄を頬張りながら長谷部は目的を忘れてしまいそうだと思った。いや、もうすでに道を外れてしまっているのだ。
「ん、はっ、もうやめ、」
定位置になった文机に座ってもう二度は射精した大倶利伽羅の雄に舌を絡めることをやめられない。ぼこぼことしたおうとつを楽しみ、生み出される露を舐めすすることを続けている。舌の上に苦いような独特のえぐみを感じた瞬間に緊張で冷え冷えとしていた長谷部の頭に靄がかかり、欲しいという言葉でいっぱいになってしまうのだ。菓子作りが巧みな歌仙が作る上品な甘さの好物である練り切りより、ずっと美味しく感じる子種を長谷部に与えてほしいと。
唇で締め付け上顎に先を擦り付けながら扱くといったん離れ、膨れ上がって浮き立つ血管をうっとりとした視線でなでてから、ちゅ、ちゅ、と裏筋を食む。がくがくと大倶利伽羅の腰が痙攣し髪をぎちりと掴まれる。その痛みすら甘い。飲めば飲むほど渇いていく。陰嚢を指でくすぐりながら鈴口を何度も舌先で抉り、飲ませて欲しいとねだる。
あふれだした唾液が長谷部の火照った舌先から、腫れ上がって脈打つ雄を伝い、ぽたりぽたりとしたたって畳の上に水たまりを作る。
もっと、もっと、お願いだ。
「く、う、あっ、〜〜〜〜っ!」
すごい力で頭を押しのけられた瞬間、離れた雄から透明な液体が吹き出た。ほおに首筋に降りかかっては流れていく熱に、うっとりしたようなここちで長谷部は唇を舐めとった。耳朶をくすぐっていた低く押し殺された声が脳内にこだまして、我知らず背がたわんだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、」
上から熱く湿った息と冷たい汗がぼたりぼたり、と降りかかる。大倶利伽羅の懐かしいような感触を覚えるオリエンタルな匂いに包まれて、かくかくとふれてもいない長谷部の腰が震えた。大倶利伽羅が疲れ切って閉じていた瞼を上げ、見上げた先にすぅと金の筋が浮かんだ。
「っん」
力なくたくましい腿にしなだれていた手がとられ、白濁や唾液、様々な体液で汚れた皮膚を舐められる。ざらざらとした舌が掃き清めるように手のひらをなでては指の腹を濡らし、舌先が指の股をくすぐった。
綺麗にするのがマナーだ、と長谷部が適当に言ったことを大倶利伽羅は覚えていたのだろう。
「ぁ」
熱い口内に人差し指が招き入れられた。濡れた粘膜で締めつけては吸い上げる。ちゅ、ちゅ、と水音を立てて赤ん坊のように吸いつかれて腹がきゅうきゅうとおかしな音を立てて痙攣する。金の瞳が長谷部を射し貫き目を逸らせない。
「ひ、ぁ」
見せつけるように、やわくやわく歯が立てられ、びくんと大きく長谷部の腰が跳ねた。
遅ればせながらマニュアルを開き自慰の項目を読んだらしい大倶利伽羅が「もうひとりでもできる」と言っても、長谷部は「お前ぐらいの青年の体は機会を作って多めに出した方いいんだ」と返して、彼がひとりでする時間がないのを知りながら仕掛け続けている。
それはそうだ。彼は育成期間中で出陣に出ずっぱりであるし、空いた時間は事務仕事をする長谷部のそばにいることが多い。彼が帰城した際にも出した方が体にいいとうそぶきながら、処理を買ってでる長谷部は傍若無人な先輩だ。さすがに干渉しすぎだと嫌がられるかと思ったが、彼はもの言いたげな瞳ひとつで長谷部のしたいようにさせてくれ、完全に長谷部のわがままである行為を素直に受け止めている。頭のいい彼はきっとおかしいと思っていても長谷部のすることを許しているのだ。嬉しいと同時に申し訳ないのに、キッパリ嫌だと言われる未来が来る前に今だけ彼の味を己に刻みつけたいと思わずにいられない。
長谷部を見下ろす瞳が眠そうに揺らいだ。ゆらりと身体を揺らしながら大倶利伽羅は長谷部の顎をとる。
「あんたは子種がたまらないのか?」
「あ、う、……なるけども」
「俺にもやらせてくれ」
充分に教わったし、俺もあんたを気持ちよくしたい。低く囁かれた声に目を瞬かせた長谷部は、遅れて腰がじんと痺れるのを感じた。
なんてかわいい教え子なんだ。馴れ合うつもりはない、と刀同士の友好関係に潔癖なへきがある大倶利伽羅にとって貰うばかりは嫌なのだろう。彼の成長を目にしてきた長谷部はその一見冷たい言葉の含むものを知っている。彼は自分では返せないものは貰いたくない、やさしい、やさしい子なのだ。
ぽろりと素直な言葉がこぼれた。
「くち、だけで充分に気持ちいいんだ」
「……は?」
見せた方が早いかと大倶利伽羅の見つめる目前で長谷部は膝立ちになり、浴衣の裾をたぐり唇で噛むと下着を下ろした。ねとりと糸を引いて白いものがこびりつく性器がさらされた。
ひゅっと息を飲む音がして、あらわになったままの大倶利伽羅の雄が震えた気がした。沈黙が痛くておそるおそる表情を伺うと大倶利伽羅は目を見開いて固まっている。ごくりと喉仏が上下した。ぶわりと胸に膨れ上がった、呆れられたのではという不安を大倶利伽羅の雄が反応したことで蹴散らす。
でも、流石にこれ以上はぜいたくだと気まずく衣服を直し、長谷部は黙々とお互いの身体を綺麗にして、動きがぎこちなくなった大倶利伽羅を寝かしつけた。
夢で何かを食べているのだろうか、もぐもぐと口元を動かしては落ち着く穏やかな寝顔が、時たま夢見が悪いのか険しい顔になるのが扇情的で、長谷部はごくりと唾を飲み込んだ。眠る大倶利伽羅の腕に雄を擦り付けながら足りないと喚く後孔に突き立てる指の動きを激しくする。
「ん、ふ、」
長谷部は大倶利伽羅の熱を発散させたあとも身のうちで燻り続ける熱を、ひとりでなだめる悪癖から手を洗えないでいた。それどころかエスカレートしているのを自覚している。いつ起きるかわからないというのに、彼の熱が近くにないと渇きばかりがまして落ち着かないのだ。
事前に熱を発散させようと戦場に率先して出たりもしたが、いない大倶利伽羅の戦う姿を求めてしまう。彼がある程度育ったので最近は部隊を同じくしていないが、一緒に出陣していた頃に目の当たりにした太刀筋は、経験が足りず無駄が多いのに力強く、負けまいと食らいつく鬼神のような迫力に瞠目したものだ。
あの頃は気づいていなかったが、長谷部は確かに戦う大倶利伽羅に見蕩れていた。
真っ直ぐに穿き、手首を回して抉りながら抜く仕草。血に濡れた唇が囁く物騒な言葉。煌めく龍が空をかけて敵の首に絡みついて落とす軌道。倒れてもすぐ立ち上がり鋭い視線を走らせる繊細さ。しっかりととどめを刺す慈悲深い所業。
ひらたく言うなら向上心や闘争心というものが、ぐらぐらと煮え立って立ちのぼる炎のように眼前に迫り、効率ばかりを追って戦をしていた長谷部に初心を思い出させた。
それは、負けたくない、という刀の矜恃だ。
ああ、溶ける。
思い出しても長谷部の中に熱が伝播して溶けていく。ぐちぐちと泡立つような水音が激しくなり、身体が痙攣しだすと唇を噛み締めた。
「ん、ふ、ん、ん」
鼻から甘えた息がひっきりなしにもれる。雄はしとどに艶やかな龍の鱗を濡らし、溶けだした長谷部の肉は食むものを求めてさっきから歯噛みを繰り返している。己の指では足りないと。
大倶利伽羅の鋭い歯に挟まれた時の感触を思い出した指がわなないた。長谷部の肉につるりとした歯が食いこんだ瞬間、頭に浮かんだ衝動は、そう、「食べられたい」という欲望だった。擦り付ける腰の動きが自ずと速くなる。
あの豪壮な刃、目前にあるこの熱が、長谷部に挿し込まれ胎をめちゃくちゃにしてくれたら。
「ん、んん~~~~っ!」
冷たい汗が反らせた背筋を伝うのを感じながら、呆然と視線を落とすと漆黒の龍が白濁にべたりと汚されていた。
途端に鼻の奥がツンとする。もれだしてしまいそうな泣き言を長谷部は唇を噛んで閉じ込めた。
のろのろと生々しい痕跡を綺麗にして布団を重ね暖かくしてやると、大倶利伽羅の横に潜り込んだ。吐き出してしまえば己をさいなむいたたまれなさに、今すぐ逃げ出してしまいたいところだったが、大倶利伽羅の要望に負けて一緒に寝る約束をしたので、ほかの場所にはいけない。
「眠りに落ちる前はいたはずなのに目覚めてひとりだと胸が寒い」なんてじっとつぶらな目で見つめて言うものだから、長谷部はきゅうきゅうと鳴く腹を抱えて「なら一緒に寝るか」と言うしかなかった。
ああ、やっぱり大倶利伽羅の好きは親愛で、生まれて間もない頃から近くで世話を焼いた長谷部が刷り込まれただけなのではないだろうか。
見ないようにしていた罪悪感が胸に広がる。こころに知らぬうちに充ちる、こうだったら、ああだったら、というふわふわした夢のようなものは現実を見つめれば霧散するものだったのに、こうしたい、ああしたい、と確かな輪郭をもった瞬間にねっとりと絡みつくような欲望に変わってしまった。
布団の中だというのに寒くて、大倶利伽羅に寄り添おうとして、ためらう。
こころと身体はあくまで一致しないものだが、いったい長谷部はこころと身体どっちが欲しいのだろうか。どうしてもふれる資格があるように思えなくて、静かに背を向けると長谷部は丸くなった。
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